「アダテペ・オリーブオイルミュージアム」は、このヨーロッパ文明の始まりの歴史的な舞台となった場所にあり、その長い時間を実感しながらオリーブの歴史を紹介する博物館ですが、過去を語るだけの場所ではありません。
 毎年晩秋から春先にかけて、ミュージアムは「工房」となり、地域の人々と伝統的な方法でエクストラバージンオリーブオイルとオリーブ石鹸を作ります。
 原料のオリーブの果実は、エーゲ海に面した畑でミュージアムが広める化学物質や農薬を使わない自然農法で生産したもの。このオリーブの実りと丁寧なものづくりを見るため、トルコ各地から多くの人が集まります。
集まった人びとは、新鮮なジュースのようなオイルを味わい、石鹸づくりやオリーブの神話や歴史の展示に誘われて、アダテペ村のゼウスの神託の丘へ登り、オリーブの樹の海とエーゲ海を眺め、村のカフェで自然や伝統と調和した、ゆったりと豊かで美しい人間らしい生活を想うのです。

 このようにミュージアムは、トルコやギリシア文明とオリーブの文化歴史を伝えるエコツーリズム、安全なオリーブ栽培や伝統的なものづくりと販売を基盤に、持続的な地域経済の安定を試みています。
 自然と調和し、手と時間をかけるものづくりが、生活に創造性と物語を生み、丁寧な生き方にある真の豊かさを伝え、その輪を広げようとしています。

 そして、これらのオリーブを源にしたかけがえのない恵みを、ミュージアムの人々は「オリーブこそ、生命ある黄金」とたとえて言います。
 触れるもの全てを黄金にする力を得たものの、大切な娘や食物までが金となり、冷たい富の代償に生きる喜びを失ってしまったマイダス王の神話や、いつか尽きる金の鉱脈など、命から遠く冷たい一時の富の象徴の金より、数百年を生き、人と共にあるオリーブがもたらす自然の恵みこそ、かけがえのない真の黄金という、オリーブとギリシア神話の地に生きる人らしいたとえです。毎日朝日に輝くオリーブの畑の光景も、オリーブが命ある黄金である証のようです。オリーブの歴史紹介に留まらず、栽培者、オイルと石鹸の生産者として、オリーブと共に生きるミュージアムだからこその言葉でもあります。

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 企業の経済活動が、地域の人々の共感を得ながら環境や文化の保護、経済に貢献する。自然と伝統を尊ぶものづくりに、人がより良く生きる未来を求め、実践する。
 自然と人と共に今を生きるリビング・ミュージアム『生きている博物館』であること。それが「アダテペ・オリーブオイルミュージアム」の願いです。

 今、アダテペ周辺の水源であり、歴史的財産でもあるイダ山が、金鉱開発による環境破壊の危機にさらされています。 ミュージアムは「オリーブこそ、生命の黄金。」という言葉をかかげ、地域の人と共に開発を休止させ、今もその休止を持続させる運動を続けています。ものづくりに加え、環境保全活動なども始め、ものづくりの精神とそれを支える人間本来の生活のありかた、質を豊かにする活動を一層、深めつつあります。 
「金鉱はいつか尽き、そのとき自然も仕事もここで生きてきた人生や思い出も、全てが失われます。でもオリーブにはそんな終わりはありません。」
 ミュージアムの人々は言います。それは、理念だけではなく、彼等が実際にここでもの作りをしてきた時間から生まれた血の通った誇り高い言葉です。

 職人が、こだわりと誇りを持って1つ1つの石鹸を作っていること。
 昔ながらの手のかかる方法にこだわって作ったエクストラバージンオリーブオイルを使っていること。
 オリーブ栽培や文化や自然を学ぶためのサマースクールの企画をもとにしたエコツーリズム、オーガニック食品づくりなどによる周辺地域の産業、就労の機会の創出を行っていること。
 そんな積み重ねが、オイルや石鹸に上質さを生み出しているのはもちろん、2001年、初めて訪れた時には、仕事を求めた人々の都市への流出によって、廃墟に近かったアダテペ村が、今は少しずつ美しく再生しはじめたこと。

 いずれも、自然や伝統を尊重したものづくりという実践を地域の人々と共に行い、アダテペ周辺の文化も経済も長くオリーブと共にあることや、それが今も変わらず、生活の豊かさの源であり、更に地域の多くの人の中に「それは自然があればこそだ」という、共感をつくりあげたから生まれた成果です。この歩みがあるがゆえに、オリーブを本物の黄金だというミュージアムの言葉は力強いのでしょう。
 私達ナイアードも、彼らの作ったオイルで石鹸を作り、アダテペの石鹸を紹介することを通して、その真摯な活動に寄り添い、ともに良きもの作りの方法、自然との調和して生きる方法を、模索していきます。

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 アダテペなどエーゲ海周辺の村を擁するイダ山は、標高1774メートル、面積700Km平方メートルの山岳地帯。豊かな水と渓谷にめぐまれ『オリーブの谷』と呼ばれるほか、山  の西側にあるトロイ遺跡にちなんで『トロイの谷』とも呼ばれています。
 エーゲ海に面し、古くから様々な民族、文化が交流する場であったことから、しばしばギリシア神話の舞台となってきた場所。
 パリスが幼少期を過ごし、三人の女神の中から最も美しい女神を選んだトロイ戦争、水瓶座のシンボルである美少年ガニュメデスが、鷲に姿を変えたゼウスに攫われた場所、河の神スカマンドロスや水のニンフ、イダイアが住んでいたというカラメンデレス川の谷などはすべてイダ山が舞台になっています。
 また、トロイ戦争の時にはゼウス達オリュンポスの神々は、イダ山からトロイ戦争の成り行きを見守ったと言われています。

 この他、ホメロスの叙事詩「オデュッセウス」にも登場するほか、ローマ時代の巫女のことばを集めた「シビラの書」が生まれた場所、また、古代においてヨーロッパからアジアまで広く信仰された大地母神キュベレーが生まれたとされ、大地母神信仰の対象となり、ローマでは地母神を「イデーア・マーテル」、イダの母というように、この山の名前は大地の女神の名と深く結びついています。
 これも、豊かな水や多彩な表情を見せる自然、オリーブの恵みといった、生命の源とも言えるものたちから生まれたイメージでしょう。

 このことからもわかるように、イダ山はトロイなど古代ギリシア文明、ヨーロッパ文明の始まりにも大きな関わりを持つ歴史的な場所です。
 豊かな水やオリーブ、人が暮らしやすい風土というまたとない恵みを人々に与えていた事が、このような神話や大地の女神のイメージを生み出して行ったのでしょう。

 イダ山のごく一部の地域は、自然公園になっていますが、その領域外では、金の鉱脈が発見され、その試掘や採掘によって自然と歴史的地域の破壊がおこりかけています。
 アダテペ・オリーブオイルミュージアムでは、この金鉱の試掘の反対運動、イダ山の自然保護活動を行い、金鉱の試掘を休止することに成功しました。しかし、運動を続けない限り、開発が再開されるおそれもあります。

 私達ナイアードも、この石鹸のやさしい使い心地を通して、多くのみなさんにアダテペ村とイダ山の豊かな自然、またそこでの伝統的な人々の暮らしを感じると同時に、石鹸を使う事で、ミュージアムの活動に、イダ山の豊かな自然を守ることにも参加している事を、思い浮かべていただけたらと思います。


【写真(上から)】 

◎アダテペ・オリーブオイルミュージアム入り口:
 ミュージアムは、以前はオリーブ石鹸の工場だった建物を再利用したもの。今でも、1階の隅には、大きな石鹸がまが残されています。赤いレンガが美しい建物です。建物の背後には、小さなオリーブ畑があり、様々な品種のオリーブの木を見られます。春夏は、観光客でにぎわい、特に夏は、アダテペ村でオリーブの歴史や、環境保護についてのサマースクールが開かれますが、冬は、ミュージアムの1階ではオリーブオイル作りが、オリーブ畑の中では、オリーブ石鹸作りが行われます。

◎オリーブの木とオリーブの実:
 オリーブの古木に、たっぷり実るオリーブの実。あまりに沢山なので、枝が枝垂れてしまっていました。

◎オリーブオイルをあつめる:
 アダテペのエクストラバージンオリーブオイルは、果実ペーストを搾った果汁の上に自然に浮き上がるオイルだけを薄いステンレスの皿状の器で集めるもっとも伝統的で手間がかかる方法でつくったものです。集めたオイルを更に大きなタンクに密閉保管し、果実の欠片などを濾過、あわい緑がかった透明な金色のオリーブオイルができあがります。

◎オイルのクオリティコントロール:
 オイルの品質チェックをしている、ミュージアム創設者の一人、マームットさん。オリーブの自然栽培について造詣が深いばかりでなく、オリーブの歴史について本を出してしまうほど、オリーブを愛する人です


◎樹齢数百年のオリーブの巨木:
 オリーブの木は枝の剪定を丁寧に行えば、数百年を生きる事ができます。この木も何世代にもわたって大切にされて来た一本。
 オリーブの木は歳を経るほどに、幹が螺旋状にねじれるように育って行きます。個の木も、おおきくうねり、その表情が樹皮にあらわれています。剪定された枝も無駄にされる事はありません。太い部分は、木工品の材料に。細い部分は、石鹸作りの焚付けに使われます。

◎イダ山の豊かな水(5、6、7枚目):
 秋から冬にかけての地中海沿岸は、比較的雨が多い季節。この頃のイダ山は冷え込む事が多く、時には雪が降る事もあります。冬、山は腐葉土や苔、土にたっぷり水を含み、春の芽生えの季節、その恵みを一斉に植物たちに与えます

 一番下の写真の小さな葉は野生のセージ。イダ山は、セージやオレガノ、サフランなど野生のハーブが多く群生する場所でもあります。イダ山のセージティは、アダテペ周辺のカフェでは必ず出てくるメニューです


◎金鉱採掘反対を呼びかけるバナー(一番下):
 「オリーブこそ、イダ山の本当の黄金です。山の大地を傷つけないで!」という意味の垂れ幕が、アダテペを中心に、イダ山周辺の村にかけられています。金鉱山の採掘は、一時の仕事と利益をもたらしても、金が尽きれば、景観の破壊、廃液や山を削ることでおこる、汚染や災害の危機しか残らない。本当の持続的な経済の安定、より人間的な豊かさのある生活を獲得することこそ、最も大切なことだと、オリーブミュージアムは呼びかけています。
 たれ幕だけではなく、環境保護の集会や雑誌での情報発信などを通して、金鉱採掘の反対を続けています。

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