ばら水や精油など、ばらの香料の原料になるのは、「ダマスカス・ローズ」学名、rosa Damascenaという、原種に近いバラの一つです。私達のばら水も、このバラを原料にしています。
(左写真:ムゴナのダマスカス・ローズ)

ダマスカス・ローズの原産は、中近東周辺、またアジアとも言われていますが、ばらは、その美しさと香りゆえ、紀元前の時代より、さまざまな人々の手を経て世界各地へと伝えられ、栽培される地域は非常に広いものとなりました。

ヨーロッパへバラが到達したのは、フェニキア人によってエジプトを経てギリシアへ運ばれたのが始まりと言われています。モロッコの先住民族、ベルベルの人々は、このフェニキア人たちと交易もしていたそうです。モロッコにばらが辿り着いたのも、丁度この頃ではないかと想像が広がります。

 ギリシア時代のホメロスの詩、エジプトのクレオパトラの美の秘密、ローマ皇帝のバラ三昧のパーティなどのエピソード、インドのアーユルヴェーダ、中国の詩、お茶のレシピ、日本でも万葉集や源氏物語にばらは登場します。ルネサンスの画家、ボッティチェルリの作品「ヴィーナスの誕生」で海から生まれたばかりのヴィーナスの周りに舞う花は、その美と競わせるため、大地の神が生み出したこのばらですし、赤いばらは、ヴィーナスが流した血から生まれたという神話もあります。カルメンが自分の象徴とするのは赤いバラです。これらの物語に代表されるように官能的な美や情熱の象徴となった反面、眠り姫を守る茨の垣根や、聖女のイメージなど、清純さや清らかさ、神聖さの象徴にもなり、ばらは、あらゆる理想の女性像や美のイメージが重ねられます。
相反するイメージが読み取られてしまうほどの奥深い魅力を持ち、古代から現代まで、文化も時間も超えて多くの人々姿も香りももっとも愛された花、それが、ばらです。

 ダマスカス・ローズは、現在一般的な園芸種のばら(モダンローズ)とは異なる、オールドローズと呼ばれるばらの仲間です。
花はピンク色で八重咲きの直径7cmくらいの小さなばらで、先に尖った花弁の多い園芸種と異なり、先の丸い花弁の素朴な形をしています。
香りもモダンローズの軽く、紅茶のような爽やかなグリーン系に対し、蜂蜜に似た重厚で、野趣ある甘い香りが特徴です。香りそのものもとても強く、良く香り、朝のムゴナの風はばらの香りがする程です。
 微かに粘り気のある香りは、力強く、自然の豊かな生命力を感じさせてくれるようです。もしも日本で、ダマスカスローズに近い香りを体験するとしたら、ハマナスの香りが似ているでしょう。

ばらの香りは、初めは花を水につけて作る香り水や、油に香りを移した香油などが主流でした。10世紀頃、科学の先駆けである錬金術の発達と共に、蒸留の技術が発達、芳香蒸留水のばら水が登場しました。
 ばらの香りをいかに捕まえるか、さまざまな方法が古くから試された事からもわかるように、世界各地で、香水や化粧料として用いられるのは、もろんのこと、食品や薬としても長く用いられました。

 私達日本人にとって、ばらは目で楽しむものという印象が強いでしょう。また、香りの楽しみも、はたらきも女性のもの、特別なものというイメージがあります。

でも、モロッコでは、もっと日常的で身近なもの。

アーモンド菓子や飲み物の香り付けなど食用として、胃腸薬、目薬などの家庭薬として、洗顔、礼拝前の身体を浄める時、また、冠婚葬祭、来客をもてなす時など、生活の様々な場面で頻繁に用いられます。男性も、礼拝に出かける時、シャワーの後など、バラ水をとても普通に使います。ナイアード・モロッコのスタッフたちは、私達のばら水をきっかけに、もっとさまざまな場面で、日本でもより多くの人に気軽にばらの香りを楽しんでほしいと願っています。