石鹸やシャンプーのように使える粘土、古くて新しい素材としてガスールを2000年に紹介して以来、私たちナイアードは、より滑らかで優しい使い心地を求めて来ました。
また、鉱山を訪れる度に見るガスールの原石は、ケイ素などの結晶以外は、ほぼ純粋なガスールでできており、ロウのようにかすかに透き通っているようにさえ見えるきめ細かさ。それを見る程に、この原石本来のガスールの滑らかな感触を生かすことはできないか?という私たちの願いは深まる一方でした。

その願いを実現するため、2004年、マラケシュに工房を設立、2005年、ばら水を皮切りに、ガスールの自主生産もスタートしました。
私たちナイアードは、これまでも「エコロジーを前提とし、伝統的な技術や素材に新しい命と精神を吹き込むものづくりを行う」をコンセプトに、インドのヘナ、ネパールのビーワックスリップクリーム、タイの石鹸やクリーム、パッケージデザインなど、世界各地の素材の生産や伝統的な技術を今も伝える地域の人々とのもの作りの可能性を実感してきました。これら、私たちが続けて来た実践も、このガスールの自主生産を始める大きなきっかけの一つでした。

今後も私たちナイアードは、世界のさまざまな地域で、伝統的な自然素材や技術の再発見をし、もの作りする場所や時間を共有しながら、地域の雇用の機会や事業の可能性、環境の保全と経済の両立の意識等も実感できる、開かれた自主生産のあり方を模索して行くことでしょう。自主生産のもと、生まれ変わったガスールの、一層心地よくなった使い心地は、私たちナイアードのもの作りのスピリットの手触りでもあります。それを感じていただけたらと、思います。


ガスールの原石がとれる場所は、アトラス山脈のわずかな地域に限られた貴重なものです。石だらけのがたがたとした道を延々と進むとあたりの砂や石がきらきらと光りはじめ、それが瑪瑙やケイ素の結晶だと気がつきはじめると、いよいよ鉱山。
人里離れた場所にある鉱山で働く鉱夫たちのために、鉱山には小さなカフェや床屋、モスクなどが併設されています。

ガスールのある地層は、ジュラ紀に周辺の山から流れて来たものが、湖に堆積し、火山の力で変化したものと言われ、マグネシウムやカルシウム、硅素などを多く含んでいます。そのため、硅素やカルシウムを含む、石膏やめのうの層とがまるで、パイ生地のように交互に重なって、ガスールの地層はできています。

鉱床自体はとても広大でも、層の厚さはまちまち、場所によっては、数十センチの薄さしかない場所もあるので、鉱脈を探すのも、鉱夫の経験が頼り。もちろん機械は使えません。ガスールの鉱脈に辿り着く坑道も、原石の採掘も、すべて手作業で行わなくてはならないのです。このようにすべてが、手作業で行われるため、大量に採掘することも難しいものでもあります。

とても昔から、このガスールや、結晶は、人々に用いられたのか、鉱山の周辺では、古代人の矢じりが見つかることがあります。

それほど昔ではなくても、数十年前までは原石は貨幣と同じくらいの価値を持ち、塩やパンなどと交換できたそうで、人々が長く長く、ガスールを用い、大切にしていたことが、とても良くわかります。

鉱山の生き字引のような鉱夫、ヘットさんは、少年時代に、ガスールを持って、フェズの市場へ出かけるのが楽しみだったそうです。
彼は「ガスールは、まるで、金のようだった。パンでも砂糖でも塩でも、ガスールで買えたんだから。」とかつてを懐かしみます。
今では、もうそれはできませんが、ヘットさんに限らず、鉱夫たちのガスールを愛する気持ちは変わりません。また、ガスールのありかを教えてくれる、石膏やめのうの結晶はとても美しくもあり、大きな結晶や、形の良い物を鉱夫たちは、道や自分の部屋に飾ったりし、大切にしています。ガスールのみならず、鉱山をみんなが深く愛していることが伝わって来ます。

写真:
上:鉱山全景。山の中腹の白い帯の上くらいにガスールの鉱脈が集まっている。右上:鉱夫と鉱脈。頭上右に照らされているのがガスールの鉱脈。
中:採掘されたばかりの混じり気なしのガスール原石。しっとりと水気を含み、ロウのようにつややかで、滑らか。

上:鉱山の生き字引、18才から鉱山で働いているヘットさん。





ガスール作りの最盛期は真夏。
マラケシュの強烈な夏の日射しと、大西洋からの西風がガスールを乾かします。その暑い太陽のもと、原石を乾かすために、屋上のテラスに運んだり、水を含んで重たく粘り気を帯びて溶けたガスールの液をかき混ぜたりの、ガスール作りはかなりの力仕事
ガスール作りのスタッフは、近くの村のベルベル人の男性達です。

1)原石を乾燥
ガスールの原石は、とても粒子の密度が高く、そのままでは水にとけてくれません。一度強い日光の下で乾燥させると、自然に小さくひび割れて砕けて行きます。そうなってから、やっとガスールの原石は水に溶けてくれるようになり、
時間をかけて良く乾かす程、完成するガスールは滑らかな使い心地に仕上がるようになります。
小さくなった原石の欠片の中から、スタッフたちは手作業で、ケイ素等、ガスールの鉱脈から出て来るケイ素等の鉱物の結晶を取り除きます。しかし、こうしたケイ素等は、決して厄介な存在ではありません。砂漠のばらに似た、美しい形をし、ガスールの鉱脈を見つける目印になり、ガスールがミネラルをたっぷり含んだ粘土である証しだからです。

2)水に溶かす
地下およそ40mから汲み上げた地下水で、砕けたガスール原石をおよそ1日かけて溶かします。
小さく砕けた原石は、ひび割れからたっぷり水を吸い込み、徐々に容積をふくらませながら、滑らかなペーストに変容して行きます。昼休みや祈りの静かな時間には、ふくらんで行くガスールが、ひび割れにたまった空気を追い出して行く音が、工房にひっそり響きませす。

3)フィルター
溶かしたガスールを目の細かなフィルターで漉し、緻密に固まって溶けきれなかったガスールや、乾燥原石の中に残っていたケイ素の結晶を取り除きます。
フィルターに残るほとんどは、溶け残ったガスールの小さな塊です。ここからも、私たちのガスールの原石の純度が高いことがわかります。滑らかでつややかで、美味しそうなくらいの溶液をスタッフたちは「チョコレート!」と冗談を言い合います。
溶けきれなかったガスールは、もう一度天日干しして使います。

4)天日干し
まず、フィルターした、とろりと滑らかなガスールの溶液を、屋上のテラスに流します。最初は、溶けたチョコレートのようなガスールは、少しずつ乾いて、自然に小さな欠片になって行きます。こうして一度溶かして乾燥させることで、たっぷり水を含んで、なめらかに溶けるガスールを作ることができるのです。
ガスールづくりの最盛期は、7月から9月。毎日最高気温が40度になる真夏の頃。とても暑く、乾燥するマラケシュにも、時々夕立ちがあります。雨が降ってしまったら、乾きかけのガスールや原石は台無しです。そんな時は、夕立ち前に必ず吹く、作業帽も吹き飛ばし、立っているのもやっとの嵐のような激しい風の中、ガスールをスタッフ総出で、倉庫へ格納、嵐が去ると、テラスを清掃し、再びガスールを干します。

5)選別
目の粗い、大きなふるいで、大きな欠片のガスールと小さな欠片のガスールに分けます。小さな欠片のガスールは、粉砕して粉末ガスールにします。


 :::写真上から:::

● ひび割れはじめたの原石。

● 水に溶かしたばかりの乾燥原石。

● 水を含んで膨らみはじめた原石のクローズアップ

● 水を含んで膨らみはじめた原石。石によって色が微妙に異なって美しい。

● 鉱脈に含まれる、ケイ素の結晶。硝子の様に透明な物、砂漠のバラのような形のものなどがある。

● 良く水に溶けたガスールを、目の細かいフィルターで漉す。

● 漉したガスールを掃除したテラスにまく。厚さを均質にまくのが、難しい。

● テラスにまいたガスール液のクローズアップ。マーブルチョコレートのようななめらかな質感。これから徐々に乾いて行く。


 :::写真下段右から:::

● ガスール天日干中のテラス。色の濃い部分がまだ乾き切っていない部分。

● 選別。ガスールはかなり重く、これも重労働。

● 嵐前、スタッフ全員、大慌てでガスールを倉庫へ格納する。










2005年のばら水でその活動をスタートしたナイアード・モロッコの工房は、モロッコの中でも長い歴史を持つ、赤い街と呼ばれる、マラケシュの東およそ20キロの郊外にあります。
あたりはオリーブの畑やドーム型のハマムがついた土の家、羊を放牧する人、麦畑。いかにもモロッコの田舎らしい、のどかな場所です。

晴れた日には、ベルベルの人たちが暮らす美しい緑の谷、ウリカ渓谷のある山、またその遠くにアトラス山脈が望める、明るく広がりのある場所です。

工房の敷地のほとんどは、オリーブの畑が占め、五月の花の季節には辺りは金木犀に似た、オリーブの花の香りに満ちます。初冬、オリーブの実を収穫、オリーブオイルを絞ってもらい、スタッフの昼食や休憩時間のお茶やパンと一緒に使います。

オリーブ畑はもちろん無農薬、化学肥料も使いません。肥料として糞を使うために、ウサギや羊等も飼っています。オリーブ畑の中には、アプリコットや、レモン、オレンジ、ザクロなどの果樹、スタッフの昼食用にズッキーニやいんげん、レタスなどの野菜畑やミントティのためのハーブなどもあります。

工房は、伝統的なモロッコのスタイルや素材を取り入れています。外壁は、土壁、屋内の壁は白の漆喰、中庭は、タデラクトと呼ばれる、漆喰を、サボン・ノワールと呼ばれるオリーブ石鹸で磨く、マラケシュの伝統的な壁で作り、窓にも、伝統的なスタイルの、素朴で優しい曲線模様の飾り格子が埋め込まれています。


現在は、まだ一部が完成していませんが、施設が完成し、スタッフのトレーニングを更に進めた後、ナイアード・タイランド同様、公開できる工房とする予定です。

::写真::
上:工房中庭を外から見る。中庭も、ガスールの原石などを乾かす大切な作業スペースです。
下:ガスールづくりを行うスタッフたち。

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