朝摘みばら水~2013年製造レポート~

アトラス山脈の雪

春のはじまり ~乾いた土地を潤す豊かな雨~

「3月に雨がたくさん降りました。薔薇のためにも、他の植物のためにもいいことです」4月の初め、今年の薔薇はどうかと気にかけていた日本のナイアードスタッフのもとに、ナイアード・モロッコのディレクター、ラシッドからそんな知らせがありました。
 
朝摘みばら水の製造はとてもシンプル。摘んだ薔薇を水蒸気蒸留し、できた芳香蒸留水をボトルに詰めるだけ。そのシンプルさ故に、農家が工房に届けてくれる薔薇の質や香りがその年のばら水の香りに大きく影響します。
朝摘みばら水の製造も今年で9年目。モロッコ・ムゴナの自然を観察し続けてきながらも3月の雨に声が躍るラシッドの様子に、ただならぬ期待を抱き始まった今年のばら水の製造でした。
4月中旬にはその期待に応えるかのように、昼は季節を先取りした暖かさだったのですが、夜は例年通りの寒さだったために昼夜の寒暖の差が激しく、花弁が茶色く傷んでしまった薔薇が多くみられる日もありました。しかし、そんな気候の中でも、契約農家が届けてくれたのは、優しい薔薇色のしっかりした花弁を持つ、柑橘系の香りが比較的強く甘い香りの薔薇でした。
その後も天候に恵まれ、暖かくなるにつれて、4月末からたくさんの薔薇が開花し、畑の薔薇色が連なっていきました。そして、5月を迎える頃には、ナイアードが1日に製造できる最大量のばら水の製造ができるようになりました。
 
今年の薔薇の季節を振り返ってみると、雨が少なかった一昨年、昨年に較べ多くの薔薇が咲き、ナイアードの工房にほど近い地域に畑を持つ農家もたくさんの新鮮な薔薇を届けてくれました。やはり3月の雨は恵みの雨だったようです。

夕暮れのムゴナ工房

作り手、伝え手が繋がる ~製造を共にし、近くなった心~

農家が届けてくれる薔薇の質と同様にばら水の香りを左右するのが、製造スタッフの、1つ1つの作業を丁寧に行うことで、ムゴナの薔薇そのものの香りを届けたいと思う気持ち。
 
朝摘みばら水の製造は、契約農家が届けてくれる薔薇をスタッフ総出で選別することから始まります。ピーク時には、毎日300kgを超える薔薇が工房に届けられます。この300㎏の薔薇を1輪1輪目視し、香りを確認しながら選別を行うと、この作業の大切さがよくわかります。
摘んで時間が経ってしまった古い花からは、酸っぱい香りがします。また、花と一緒に届いた葉や枝からは、草のようなワイルドな緑の香り。これらの香りをできるだけ取り除き、蒸留することが、新鮮で清々しいムゴナの朝摘みの薔薇そのものの香りを作ると実感します。
鮮度の高い花からは、甘く、柑橘系の香り。さらに香りを紐解くと、花のしべの部分からは松脂に似た緑の香り。これらの香りが複雑に作用しあい、朝摘みばら水の香りを作っています。
 
今年は、日本で営業窓口を担うスタッフ数名がばら水づくり真っ只中のムゴナを訪れました。息もつかぬ速さで薔薇を選別するモロッコのスタッフの傍らで茫然としながら、しかし、滞在も後半になった頃には選別作業においてかなりの戦力となってばら水の製造を存分に経験しました。
毎日の選別の作業で指の先を薔薇の脂(やに)で茶色にし、モロッコの日常食タジン(先の尖った素焼きの鍋で、スパイスと肉や野菜を煮込む料理)を囲み三食を共にした数日間。この数日間を経て、「ムゴナの薔薇そのものの香りを日本のお客様に届けたい」製造スタッフの気持ちと、そうして出来たばら水を、「製品に携わる人々や、モロッコという土地を共にお伝えしたい」営業スタッフの気持ちが交差し、融合した、今年の製造でした。

朝摘みばら水

変わりゆく町と人 ~続いていく地域の伝統~

最近の自然素材への関心の高まりから、モロッコの薔薇にも多くの興味が集まっています。ムゴナには、以前はフランスの企業の大きな水蒸気蒸留の工房があるだけでしたが、最近は小さな工房も増えてきました。たくさんの需要が生まれ薔薇の価値が上がったことは、人々の薔薇への誇りとその文化を守っていく気持ちに繋がっています。村には、畑に新たな薔薇を植え、育てる人も現れてきました。
 
毎年、薔薇のピークである5月上旬にムゴナで行われるばら祭は、そのような緩やかで力強い盛り上がりを反映するかのように、今年、新しい広場に会場を移しました。前より広くなった会場ではテントを張り、ムゴナのようにカスバ街道に点々とある村々の産物を紹介する等の新しい試みも始まりました。
祭りの中では、もともとはアラブの伝統のため、ベルベルの町ムゴナで行われるのは珍しい、美しく装飾された馬に民族衣装でまたがり騎馬芸を競う「ファンタジア」も行われ、地域の人々も観光客と共に楽しみました。
 
そんな明るい動きのあったムゴナで作られた今年の朝摘みばら水は、3月の豊かな雨に育まれた生き生きした薔薇の香りを映した、しっかりとこくのある甘さと、深みのある松脂の香り。そして、ライムのきりっとした柑橘の香りが、その重厚さを 爽やかに引き締めます。
今年の香り、そして、ボトルの中で変化し続け、深みを増していく香りの移ろい、一期一会の香りをお楽しみください。

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