ビーワックスリップクリーム~背景~

ネパールという国、暮らしている人々

ネパールの風景

「世界の屋根」と言われるヒマラヤ山脈に抱かれた国、ネパール。
その国土には、世界最高峰のエベレストをはじめ、標高8,000m級の山々が連なる一方、亜熱帯の平原も存在し、豊かで多彩な自然に囲まれています。
インドやチベット等隣国の文化に影響を受けながら独自の文化を育んだネパールは、多くの民族が暮らす多民族・多言語国家。
それぞれの民族ごとに異なる伝統や習慣、信仰を持ち、多様な文化を形成しています。

森の恵みと暮らす人々 ~ネパールのハニーハンター達~

ネパールのハニーハンター達

ネパールには、ハニーハンターと呼ばれる、森で野生の蜜蜂を追い、蜂蜜やミツロウを採取する人々がいます。
「グルン」や「ケーワット」といった民族です。
彼らは蜜蜂のみならず、自然にまつわる知識を多く持ち、自然の恵みを生活に多く取り込んで暮らしています。
ハニーハンティングは彼らの間で伝統的に受け継がれてきた技術であり、文化の1つです。

ヒマラヤオオミツバチ ~断崖のハニーハンティング~

グルンはチベット系の民族で、主にネパールの西から中央部のポカラ周辺の山岳部に暮らしています。
グルン族によるヒマラヤオオミツバチのハニーハンティングは、伝統的な技術を受け継ぐリーダーを中心に、村の男性達が協力し合って高い崖を登り行われる、勇壮なものです。
命がけで巣を集め、得られた蜂蜜は村人の食用や薬として用いられるほか、ミツロウと共に現金化され、村の公共のために活かされてきました。
また、巣の中の蜂の子は貴重なタンパク源として食用にされました。

  • ヒマラヤオオミツバチの個体量の減少により、現在、ビーワックスリップクリームに使っているミツロウはハニーハンティングによって得られるものではなく、子育てが終わってからの巣を集めて得られます。

縄はしごで、目的の巣の場所へ

はしごの下方

ハンターが、植物の蔓で作った縄はしごで目的の巣の近くへ行きます。
巣の場所によって、上から降りる場合と下から登る場合があります。
ハンティングに使う道具は、上から垂らされるロープに結びつけられ、はしごとは別につり下げられています。
「ヒマラヤオオミツバチ」は、急な崖の岩棚に集団で巣をかけるため、ハンティングは崖で行われる大変な作業。
はしごの上には、安全を守る役割、下には、場所を誘導したり収穫した巣を受け取る役割、巣を燻して蜂をおとなしくさせる役割等、仲間達が役割分担をしてハンターを守りながら働いています。

巣を切り取る
巣を切り取っているところ

目的の巣にまず、上側にいるハンターが棒で二つの穴をあけ、下側にいるハンターが、上から降ろされてくるロープが結びつけられた楔をそれぞれに通します。それから巣を切り取ります。

切り取った巣を降ろす

蜂の巣は直径1mほど、厚さは10cmから15cmほど。
弾力はありますが、もともと脆いうえに、中に蜜や幼虫が入っていて重いので、ロープの揺れを抑えながら慎重に下へ巣を降ろしていきます。ハンターは、顔こそ目以外は布で蜂にさされるのを避けていますが、作業しやすいように素手・素足です。
煙で力が弱まっているとはいえ、あたりには、巣を切り取られて怒った「ヒマラヤオオミツバチ」達が飛び回り、ハンター達の肌が露出している部分を襲います。

切り取った巣をかごに入れる
切り取った巣をかごに入れる

はしごの下側のハンターが、崖上からロープで下がってきたかごの下に棒を差し入れて固定し、はしご上のハンターが切り落とす巣の欠片をかごに受けていきます。かごに入るように、小さな大きさに何回かに分けて切り落としてゆきます。
かごが一杯になると、支えにしていた棒を引き抜き、かごを下で待つ仲間達の方へゆっくり降ろします。蜜を含む部分を切り終わるまで、数回、かごの上げ下げを繰り返します。

巣と蜂蜜を受け取る
かごに入った巣を受け取ったところ

上から降りてきたかごを受け取ります。中には、蜂蜜がたっぷり入った蜂の巣の欠片が入っています。
受け取るのは、下といっても、崖の中腹で、下はまだ10mほどの高さがある急傾斜です。人が立てる斜面からはなれた所にかごは降りてくるので、棒をひっかけて手元へ引き寄せます。
かごの中の蜂蜜を追って怒った蜜蜂達もやってくるため、下で作業する人たちも顔を布や帽子で覆っています。

オオミツバチ ~森のハニーハンティング~

ビーワックスリップクリームに使っている、もう1種類のミツロウ、オオミツバチのミツロウ。
南の森でハニーハンティングをするのは、ケーワットというインド系の民族の人々です。
彼らがハンティングする森は、ネパールの国立自然公園。国から許可を受けたハンター達だけが決められた量だけを、集めることができます。同じ「ハニーハンティング」ですが、蜂の生態によりそれぞれ採取方法が異なります。

森の蜜蜂
木にかけられたオオミツバチの巣

森に住む「オオミツバチ」は高い木の梢に巣をかけます。
「ヒマラヤオオミツバチ」よりひとまわり小さな巣とはいえ、巣の直径は60~70cm、厚さ10cmほどの、大きく立派な巣を作ります。

巣を取る
巣を切り取る

ハンターが木にのぼり、枝にかけたロープに結びつけたかごの中へ巣を切り取ります。小さな欠片やこぼれる蜂蜜は、手に持ったカンに受け取ります。
「オオミツバチ」の巣の特徴は巣の場所の役割を縦割にし、左右で蜂蜜の貯蔵場所と、子育ての場所に分けていること。この巣では左側が蜂蜜を貯める場所、右側が子育ての場所。
そのため、ハンティングでは、子育て部分は残し、蜂蜜を貯蔵する側を切り取れば良く、蜜蜂たちは、再び蜜を集める場所を作り直すことができるので、蜂の繁殖を妨げることがありません。

ミツロウを粗製する
粗製する

蜂蜜を搾り取った後の蜂の巣は、そのままでおくと巣にわずかに残った蜂蜜が発酵し、匂いが変わってしまいます。
そのため、すぐに加工しなくてはなりません。
お湯を沸かし、その中に巣の欠片を入れて煮とかし、お湯の表面にミツロウが溶けて浮き上がってきたら、水を加え、個体になったミツロウの欠片を大きなボール状に固めます。

粗製ミツロウの出来上がり
粗製されたミツロウ

固められたミツロウの形はさまざま。
これをもう一度湯煎して溶かし、精製してリップクリームの原料にします。

ヒマラヤオオミツバチ保護の取り組み ~蜜蜂との共生の道を模索する~

ハンター(村人)とはなのいえスタッフの話し合い

ビーワックスリップクリームに素晴らしい使い心地と効果をもたらし、グルン族の村へは安定した現金収入をもたらしてきた、「ヒマラヤオオミツバチ」のミツロウ。
しかし、乱獲や自然環境の変化により、2004年ごろからその生息量が減り始めました。


「ヒマラヤオオミツバチ」は、崖の岩棚に垂れ下がる半円状の巣を作りますが、半円の中央部に子育てのエリアを、その周囲に蜜を貯蔵するエリアを作るため、子育てのエリアも切り取らなければ蜜が収穫できません。
種が安定していたころは問題ありませんでしたが、現在は、地域開発や観光目的のハンティング増加等、外的要因により生息量の減少が懸念されます。グルン族の人々もいわば被害者ではありますが、従来どおりのハニーハンティングを続けては、蜂の繁殖に悪影響を及ぼしてしまいます。
ナイアードのものづくりは自然と調和して行われるべきであり、原料を得ることが種の危機に結びつくことがあってはなりません。
自然と調和し、蜂を守りながらものづくりをする道を模索する必要があったのですが、それには問題がいくつかありました。


1つは私達がヒマラヤオオミツバチのミツロウを買うことをやめても、それだけでは村人は他の買い手に売るだけ、ということ。
もう1つはハンティングをやめれば、グルンの文化の1つが廃れ、伝統的な技術の継承が途絶えてしまうこと。
しかも、ハンティングで得られる蜂蜜やミツロウは村に貴重な現金収入をもたらし、村の公共のために用いられる大切な共有財産です。
その収入がなくなれば、村のコミュニティが壊れる可能性もあります。



蜂が生き続けること。村の現金収入を維持し、村の人々の生活を守ること。グルンの文化を守り、受け継いでいくこと。
そのすべてが無理なく両立できる方法を探し、村人の理解と協力を得ることが必要でした。
そこで、蜂が子育てを終えて巣を去ったら、空の巣を採取してもらう、という約束をしました。村の収入を維持し、今後も継続的に蜂の繁殖を守ることができるよう、集めた巣は、本来取れたであろう蜂蜜の分や人件費を加味した価格で買い取ることも約束しました。


この方法なら、蜂の繁殖を守り、安定させながら、村の現金収入を維持することができ、また、空の巣を集めることでハニーハンティングの技術は守られます。


一方、「オオミツバチ」は、巣を左右に子育てエリアと蜜のエリアに分けるため、蜜のエリアのみを切り取ることができます。蜂の生態にあわせたハンティングを行うことで、繁殖を妨げることなく巣を採取できるのです。
生息域も広いことから、種の保存には問題がありません。


蜂の生態に合わせた採取方法で得られたミツロウを使い、ビーワックスリップクリームを作る。
そのことが、蜂の巣の過剰な乱獲を防ぎ、ハンターたちの収入を維持しながら蜂を保護することにつながると、私達は信じています。

ビーワックスリップクリームを作っている場所 ~はなのいえ~

はなのいえとヒマラヤ(アンナブルナ連峰)

ネパール中央部、ポカラ近郊の村アスタムにパーマカルチャー農場を併設したリゾート「はなのいえ」があります。「はなのいえ」は、宿泊施設であると同時に、ビーワックスリップクリームを作る工房でもあります。
ヒマラヤの主峰郡であるアンナプルナの麓、澄んだ美しい空気に囲まれてビーワックスリップクリームは作られるのです。

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