アダテペの石鹸~背景~

アダテペ・オリーブオイルミュージアム

アダテペ・オリーブオイルミュージアム ~オリーブの伝統を未来に繋げる博物館~

「アダテペ・オリーブオイルミュージアム」は、トロイの物語等の神話の舞台となった地域にあり、その長い歴史の中で人々が創り上げたオリーブと共にある伝統を紹介する博物館ですが、過去を語るだけの場所ではありません。
毎年、晩秋から春先にかけてミュージアムは、地域の人々と伝統的な方法でエクストラバージンオリーブオイル、オリーブ石鹸を作る「工房」になるのです。
原料のオリーブは、エーゲ海に面したミュージアムが所有、または契約する畑で収穫される自然栽培のもの。このオリーブの実りと丁寧なものづくりを広く紹介しています。
訪れた人々は、新鮮なジュースのようなオイルを味わい、石鹸づくりやオリーブの歴史の展示に誘われて、アダテペの村近くにある、ゼウスの神託の丘へのぼり、眼下に広がるオリーブ畑とエーゲ海を眺め、村のカフェで自然や伝統と調和した、ゆったりとした豊かな生活を思うのです。
 
このようにミュージアムは、トルコやギリシャ文明とオリーブの文化、歴史を伝えるエコツーリズム、安全なオリーブ栽培や伝統的なオリーブにまつわるものづくりと販売を基盤に、持続的な地域経済の安定を試みています。このミュージアムの試みは、自然と調和し、人の手でなければできないものづくりが、生活に創造性と物語を生むという、丁寧な生き方の中にある真の豊かさを伝えています。
 
ミュージアムがこのような活動を始めた経緯には、仕事を求め、都市を目指していく働き手が徐々に増え、オリーブの伝統の継承が危ぶまれていた時代背景がありました。「地域の伝統を失ってはいけない。未来に繋げなければ。」そして、ミュージアムは立ち上がりました。
企業の経済活動が、地域の人々の共感を得ながら環境や文化の保護に、また経済に貢献する。ミュージアムの長年の活動はそんな理想に一歩一歩近づいているように見えます。

アダテペの村

アダテペ・オリーブオイルミュージアムのはじまり

アダテペ・オリーブオイルミュージアムの活動は、ミュージアムの理事であり、主宰のハルクさん達が別荘を探し、友人に紹介されたアダテペを訪れたことからはじまります。天国のような場所と聞いて訪れたアダテペの村は、静かに佇む、中世の趣を残した魅力的な村でした。一目で気に入り、別荘を購入することに決めた後、別荘に頻繁に来られる理由を求めて村人とカフェで会話を重ね、オリーブ畑を購入することにしました。
オリーブは、この村にとって聖なる果物であり、昔から村人の生活になくてはならないものでした。オリーブという存在そのものと関わっていくことの意味を考え、これから始まるオリーブのビジネスに思いを馳せるとたくさんの可能性に心が躍りました。
 
まず、オリーブ畑を購入し、オリーブオイルを搾るためオリーブを収穫しました。 オリーブオイルのことを知れば知るほど、伝統的な製法でオリーブオイルを搾りたい気持ちが高まりました。そしてその気持ちを実現することがハルクさん達の次の目標になりました。
縁あって、アダテペの村のある丘を降りた、クチュクユという港町にある壊れかけの古い石鹸工場を購入できたので、リノベートし、オリーブオイルと石鹸作りを始めることにしました。そして、オリーブと人が共に歩んできた証のオイルと石鹸作り、交易の古い道具を集め、地域の歴史の紹介を始めました。これが、現在のアダテペ・オリーブオイルミュージアムです。

伝統的な石臼

伝統的なオリーブオイルづくり

ミュージアムの目的は、ただビジネスとして美味しいオイルを作ることではありません。伝統を未来に繋げること、地域の雇用を作ること、そして、オリーブのある環境を守り、地域ならではのオリーブとの関わり方を続けていくこと。
 
昨今のオイル搾りは、作業時間を短縮でき、できるだけ酸度を低く抑えられる連続製法(回転する歯でオリーブの実を素早く刻み、そこからオイルを搾る製法)も多く見られるようになりました。この製法でできるオイルは、酸度が低くフレッシュでピリッと刺激のあるオイルになります。
ミュージアムがこだわる伝統的な、石臼を使ってオリーブの実をすりつぶす方法は、今でこそモーターで石臼を回転させる機械が行なう作業となりましたが、かつて人、牛やロバ等が石臼を回していた頃と基本的には同じ構造です。すりつぶした後にできるオリーブペーストから果汁(オリーブジュース)を搾り、果汁からオイルを分けるまで、すべてに人の手を掛ける一連の工程から作られるオイルは、ほどよく酸素に触れ、まろやかで優しい風味になります。できたオイルの酸度は0.3%以下でエクストラバージンオリーブオイルの基準は達成しています。自身が作るオイルの味はもちろん、大切に育てたオリーブを人々の手を掛けて美味しくいただく。一つ一つの工程にオリーブに対する愛情とこだわりが感じられます。

伝統的な石鹸釜とメメットさん

伝統的なオリーブ石鹸づくり

ミュージアムでは、食べても美味しいエクストラバージンオリーブオイルの石鹸を伝統的な釜焚き製法で作っています。エクストラバージンオリーブオイルの石鹸は、鹸化したての時は、オイルのように優しいベージュ色をしていますが、塩析(石鹸素地から石鹸以外の成分を取り除く)の後、出来立ての石鹸はクリーム色がかった白色になります。
 
古くから、地域ではオリーブオイル石鹸づくりが盛んで、かつてはたくさんの石鹸職人がいました。しかし、現在その石鹸づくりを知る人はごくわずかとなりました。石鹸づくりは、暖めたオイルに苛性ソーダを加え鹸化させ、石鹸素地を作る工程から、木枠に流し入れた柔らかい石鹸素地をカットし刻印を打つまで、忍耐強さと、温度や湿度等で作業のスピードや方法を判断する等の人の手ならではの加減が活きる仕事です。
現在、ミュージアムの石鹸づくりを担当するのはメメットさん。伝統的な製法を受け継ぐ石鹸職人です。オリーブの剪定枝を薪にし、オイルを熱し、苛性ソーダを加えじっと鹸化を見守る真剣なまなざし、木枠に流し入れた素地が、地域の底冷えする寒い冬にも急激に冷めないように置き火をし、麻袋を被せる心遣い、丁寧な作業からは一つ一つの石鹸への愛情が感じられます。
収穫を終えた後、オリーブの大掛かりな剪定が行なわれるのですが、その際に剪定した枝を釜焚きの薪に使ったり、石鹸づくりで出た排水の処理を地域ぐるみで考えたりと、石鹸づくりの工程には、長く人々の生活がオリーブとともにある地域ならではの工夫があちこちに見られます。

オリーブの収穫

古きよき生活を見なおす ~ミュージアムの伝統を守る試み~

オリーブは、古くからアダテペの村周辺の人々の生活と深く関わり、オリーブの果実、オリーブオイル、オリーブ石鹸等がこの地域の人々の収入源でした。しかし、近代化の波に圧され、新しい仕事を求めて人々の大半は地域を離れ、都市に移り住みました。村に残った少数の人々は、所有する小さなオリーブ畑で働くか、裕福な地主の持つ大きなオリーブ畑で働くしかありませんでした。
「オリーブの伝統を絶やしてはいけない」そう考えるミュージアムの人々は、村人の通年に渡る雇用をつくるために、大きな機械を導入せず、多くの人の手を必要とする伝統の製法でオリーブオイルとオリーブ石鹸を作っています。
 
特に、オリーブ石鹸づくりは、地域の職人により代々受け継がれてきた技術で、継承していくためには通年に渡り石鹸職人を雇用することが欠かせません。石鹸づくりに適した季節は晩秋から冬にかけて。しかし、アダテペ・オリーブオイルミュージアムでは、通年に渡る雇用を実現し、石鹸職人を志す若者をアシスタントとして雇用することで、伝統を未来に繋げています。

イダ山の自然

オリーブこそ、生命ある黄金 ~イダ山の環境を守る試み~

「オリーブこそ、生命ある黄金」
オリーブを源にしたかけがえのない恵みをミュージアムの人々が例える言葉です。
ミュージアムの地域に周辺の水源の役割を果たし、未だ手つかずの自然が残るイダ山があります。
ミュージアムの石鹸づくりにも、イダ山の水を使います。この水は、古くから石鹸づくりに適した水と言われてきました。豊かな自然が恵みをもたらすイダ山は、古代には大地母神信仰などの神話で生命の源として崇められてきました。
今、イダ山は、金鉱開発による環境破壊の危機にさらされています。ミュージアムは「オリーブこそ、生命ある黄金」とスローガンを掲げ、地域の人々と共に開発を休止させ、休止を持続させる運動を続けています。
「金鉱はいつか尽き、そのとき自然も仕事もここで生きてきた人生や思い出も、全てが失われます。でもオリーブにはそんな終わりはありません」とミュージアムの人々は言います。それは、うわべだけの言葉ではなく、実際にここで地域の伝統を尊重するものづくりをしてきた時間から生まれた実感がこもっています。

アダテペの村遠景

トルコとギリシャの文化が融合する場所 ~アダテペの村~

「アダテペ・オリーブオイルミュージアム」の名前にもなったアダテペの村。イダ山麓の小さな丘の天辺にあり、眼下には樹齢数百年のオリーブが茂り、その先にエーゲ海が見えます。エーゲ海から登る朝日に照らされ、海からの風に揺れるオリーブの葉がキラキラと銀色に輝く美しい風景を見ることができます。
村は、ごつごつとした岩肌が姿を現すユニークな地形の上にあります。かつて、村ではギリシャの文化とトルコの文化が融合し、雑貨屋、床屋等、生活に必要な商店や学校、教会やモスク等の祈りの場所があり多くの人々が住んでいましたが、過疎化が進み、今は静かな町並みに数軒の家族が住む村となりました。石づくりの住居、人や馬車の往来の歴史を物語るすり減った石畳の小径、中世の面影を残すこの村は、現在トルコの景観保護地区となっていて、新しく建物を建てることができません。近年は、都会の喧噪を逃れ避暑に訪れる人々の中に、アダテペの村に古い建物を修復し別荘を構える人が増え、夏には、廃校となった小学校の校舎で、地域の歴史やオリーブオイルの料理等を学ぶことのできるサマースクールも開催されるようになり、穏やかに活気が戻ってきています。
 
地域に脈々と続いてきた伝統を今と融合させ、未来に繋げていくこと。アダテペ・オリーブオイルミュージアムと地域の人々の伝統を繋げ、新しい解釈を加える試みで、これからも村や、地域のオリーブの文化はしっかりと受け継がれていきます。

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