モロッコで作ること、
ムゴナの地域の人びととともに作ること。
ナイアードは、タイの工房の設立とともに「紹介から創造へ」というコンセプトを進めはじめています。
モロッコの工房もその試みの場のひとつとしてスタートしました。これから、ばら水、ガスールなどの自主生産を行う場所となります。
私たちのばら水は、ナイアードのモロッコと日本のスタッフ、ムゴナのベルベルの村の人々が共同で、ばらの栽培、買い付け、蒸留、そしてボトリングまでを自らの手で行います。
地域の人々(主に生産者)と理解と利益を分かち合う事で、より深く、広く長い上質さを求める気持ちを共有し、広める事が、伝統や環境を支える社会性を生み、それが本当のより力強いもの作りの道であると考えています。
朝 一 番 の 薔 薇 を 使 う
薔薇がもっとも多く芳香成分を含んで香り高いのは、早朝です。村の人々は、この時間に限って花を摘みます。そして、この朝摘みの薔薇が、私達の工房へ届けられます。
ばらの香りは、花びらだけでなく、雄しべ、雌しべの部分に特に重厚な香りがあります。香りに深みをつけるため、私たちは、花びらだけではなく、花全体、がく、しべの部分もばら水の原料として用います。
香りに苦味などが出ないように、枯れた花や葉などを、一つ一つ手作業で取り除きま、つぼみも、ひとつづつ手でひらいて使用します。
製 造 工 程
〜 現地ムゴナにて薔薇の開花期間のみ限定生産、
よりよい香りづくりと、地域との共同作業
ばら水の作り方は、とてもシンプルです。
薔薇の花を地下水で蒸し、その水を冷却するだけ。一切何かを添加する事はありません。そのため薔薇の鮮度がばら水の香りにとって、もっとも大切になります。
そこで、私たちは、より鮮度の高い薔薇を用い、地域の伝統を学びながら、生産者と共同で開発、生産を行うため、ムゴナに工房を置き、開花中のみ生産を行っています。
また、薔薇の花は、とてもデリケートで、傷がついても香りが損なわれるので、作業はすべて、手作業で行います。
作業工程1、選 別 ー 上質な香りをつくる丁寧な手作業
古い花や痛んだ花が多いと、酸味の強い薔薇水になり、葉は、青臭い匂いが強くなってしまいます。まずこれらを取り除きます。
香りは花びらの他、甘く重厚な香りが咢にもあるので、大きな蕾は、花びらと咢にほぐして使います。
ムゴナのスタッフたちは、子供の頃から、薔薇の仕事を手伝ってきているので、彼らの花を扱う手の繊細さ、丁寧さ、素早さにはマラケシュ出身のナイアードスタッフたちも驚くばかり、学ぶばかりです。こうして選別されて残ったばら水の原料として小さすぎる蕾は、屋上で乾燥させ、市場で売ります。
作業工程 2、蒸 留 ー 透明な香りをつくる伝統的な製法
大量に早く薔薇水を作るには、ボイラーを用い、高い圧力をかけて作る方法もありますが、圧力によって薔薇の香りが変わってしまいます。
私達は、圧力がかからない伝統的な蒸留器で、ジャムづくりのように、ゆっくりと時間をかけて蒸留します。蒸留に使う熱湯の温度が上がりすぎないように、数時間にわたり、火加減をしつづける、もっとも大変な作業です。経験を重ねたスタッフ達は、蒸留器の振動音で、繊細に火加減を調節します。
1回に生産するばら水の量は、使用した花と同じ重さのみとすることを原則とし、気候により、花の香りが薄い場合は、それより少ない量のばら水を作ります。それは大体100gにつき花を60〜66輪使う量になります。言わば、「朝摘みばら水」には、一瓶に60輪の薔薇のエッセンスが入っていることになります。
芳香蒸留水は、一般的に、精油の副産物と考えられていますが、モロッコやチュニジアでは、あらかじめ芳香蒸留水を作る事を目的にします。もちろん、私達のバラ水も同様です。
蒸留したバラ水を数日保管すると、表面にうっすらと油膜が張ります。バラの精油です。私たちは、精油を別に取り分けませんから、お届けするバラ水には、わずかに精油も含まれる事になります。
ムゴナとベルベル 〜 モロッコの文化の源流
自然と調和した農業、薔薇もリサイクルする知恵
ムゴナで薔薇を栽培しているのは、ベルベル人の村々。
ベルベルの人々が、彼らの伝統的な方法で薔薇を栽培する事が、モロッコのダマスカスローズに、大きな魅力と意味を与えています。それは、薔薇だけの広大な花畑が存在しない事と関係があります。
名高いローズウォーターや精油の生産地では、薔薇の大規模な単一栽培が行われますが、ムゴナにはそれはありません。
ムゴナのベルベル人の村は、今も自給自足に近い生活が営まれ、殆どの人が、農業を生活の中心に置いています。その農作物は、自らが消費する麦や野菜、オリーブ、アーモンドなど、モロッコの食の中心となる作物です。その畑では、家畜の糞や、土を休める間に植えられる、豆科の植物が肥料となり、化学合成された肥料や農薬は使われません。こうして耕され、育てられる作物を植えた畑を、部外者、害獣などから守るための防御として、薔薇は畑の周縁に植えられるのです。
農作物を守るもの、食の副産物としてムゴナの薔薇は存在し、薔薇のための特別な世話はしないのがベルベル人の伝統的な農業なのです。
このように薔薇は、伝統的な食文化や自給を守る役目を果たし 、さらに、そこから得られる香り高いばら水は、目薬や胃腸薬など家庭薬として用いられ、また現金収入を与えるなどの様々な役目を担っています。それ故に、薔薇はベルベルの人々の 伝統的な農業の豊かさや文化の象徴、誇りとなっています。
かつて、海外の企業が、ムゴナの薔薇を安く購入しようとした事に抗議して、村人たちが薔薇の枝をすべて切り払い、株が再び枝を伸ばすまでの数年間、薔薇の花が咲かなくなった事があるそうです。これも、人々が、薔薇を自らの文化の誇りと感じ、独自の伝統的な農業を守り続けたからこそできた事でしょう。
ばら水作りを始めた最初の年、私達は、蒸留後の薔薇は、畑に返してもらえるように、依頼していましたが、次の年、村人から、ムゴナでは、蒸留後の薔薇を天日で乾燥させ、羊の餌にし、その糞を肥料として畑に返す方法が伝統的な方法だと教えられ、蒸留後の薔薇を村に分けて欲しいと提案を受けたのです。土と花の循環の間に、羊が加わる事で、農業の循環系はひとまわり大きく膨らみました。
また、ムゴナでは、羊は、食料や糞を畑の肥料、毛を織物の原料を人に与えてくれるほか、 ラマダンの後の犠牲祭では、神に捧げる動物ともなる、とても身近で大切な動物です。そして、薔薇を 食べた羊は、とても美味しくなるのだそうです。
畑を柵となって守り、その土となって作物を育て、羊を養うことで、食を支え、 さらにばら水で、収入と香りを生活に喜びをもたらす薔薇。
ムゴナの中で、薔薇は多彩な役目を担っていること、ムゴナの人々が薔薇を大切にしていることが実感できるサイクルです。
このような、ムゴナのベルベルの人々の伝統的な循環型農業のありかたは、私たちが、ネパールやタイで試みる、パーマカルチャーや環境に負荷をかけないナイアードのもの作りとの共通性を持つものであり、世界各地にある薔薇の産地から、モロッコのムゴナの薔薇を私たちのばら水作りの場として選んだ大きな要素のひとつでもあります。
ムゴナでの伝統的な産業の維持や、共同作業を通し、私たちは、薔薇やばら水の製法についての新しい知識を学び、もの作りと暮らし、身体感覚の結びつきを実感しています。それは、ムゴナの人々には、伝統文化の再発見、その価値の再認識が、地域をもり立てていく力の源になっていくことでしょう。
【写 真】(上から)
・モロッコらしい窓の鉄枠に飾られたダマスカスローズ。
・ばらの買い付け風景。
生産農家の人と、ナイアード・モロッコスタッフが、
薔薇の重量を計量。
・薔薇の生産者。薔薇の垣根の影には、豊かな麦畑が隠れています。
・彼が届けてくれた薔薇。
・薔薇を選別中のナイアードスタッフ。
彼はマラケシュ生まれのベルベル人。
ばら水作りを始めたばかりの頃は強すぎる薔薇の香りや
指に刺さる刺に苦労しました。
・選別した薔薇を蒸留器に入れるところ。軽くはかなそうな花も
これだけの量になると、一人ではとても運べない重さになります。
・蒸留が終わった後の蒸留器の解体作業中。
1回蒸留が終わると、必ず蒸留器の中は洗浄されます。
・蒸留後の薔薇を、引き取りにきた村の男性。
蒸留後の薔薇は、茶色くなり、ジャム状に柔かくなっています。
村では、これを乾燥させて羊の餌に。羊は肉や織物となり、
糞が、畑の肥料になります。
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